始まりの宝石
私がEXOのファンとなった決定的な理由に、ある1つの曲の存在がある。
正規1集「XOXO」のトラック3、Black Pearlだ。
私にとってこの曲は、EXOを知った当時、言葉にし難いほど強烈な衝撃と感動を与えた、掛け替えのない存在である。
言葉にし難いとは言いつつも、その忘れられない興奮を以下にちゃっかり認(したた)めた。
私の只事ではない取り乱しようと、隠しきれない厨二臭が容易に見て取れるので、この曲を知っている人も知らない人もぜひご覧に入れてほしい。
【総評】
控えめに言って神曲。
全ての始まり。賛美歌。鎮魂歌。
私がEXOというアイドルにハマりかけていた時、その手を引っ掴んで底なし沼に引きずり込んだ諸悪の根源であり、万物の象徴。
神秘的なストリングスとデビューティーザー映像の頃から引き続き使用された破壊的にかっこいいリフに、暴力的でアイドルソングの割に重めのダブステップが組み合わされたメロディも、ボーカルラインの甘くて切ない声も。
ラップラインのハスキーで男らしい声もバックコーラスも、全部が奇跡みたいに完璧だ。
この曲がなかったら私はここまでEXOに固執してないし、12人に執着してないと思う。
この曲が公で歌われたのは、12人の頃では多分2013年クリスマスのSMTOWN WEEKだけ。
あ〜悲しい。
この曲の歌詞に歌われてる尊い彼女=Black Pearlは、私にとってはまさに、12人の時の彼らのことなのだ。
この曲に対する私の感情で最も的確なのは、まさしく〝依存〟という言葉だと思う。
もしも神様に「お前は明日から死ぬまで、たった1曲の音楽しか聴いてはならない」と言われたら、涙を流して喜び、迷わずこの曲を選ぶだろう。
死んで出棺される時はこの曲をかけて葬儀場を出たい。
この曲を構成する全ての音符を拾い集めて、墓の中まで大事に持って行きたい。
正直本人たちより聴いているし、気持ち悪いぐらい思い入れが強い。
【EXO-K ver.】
全体的に綺麗である。
神秘的なイメージと印象を受けやすいのは韓国語版だといえる。
繊細で独特な響きを持つディオが出だしを歌うことで、単なる〝男女の恋愛〟のような没個性的なコンセプトとは違う、この曲独特の世界観へ持ち込ませることに成功している。
また切望するように哀願するように、迫力のあるシャウトで魅了するのはベッキョン。
音色が一気に増えるサビの直前も鮮やかに繋ぐ。
そして要所で光る透き通るようなハーモニーとコーラスを主として、この曲全体のバランスを支えるのはスホ。
秘宝や航海、女神などのフィクション要素からなる一風変わったコンセプトに、まさにロマンティックな幻想を抱かせる抜群の歌唱力だ。
ラップラインのカイ、セフン、チャニョルは、勇ましい歌詞の割には少々優雅なイメージを残す。
が、何と言ってもSMTOWN WEEKでのチャニョルパート終わり直後の、3人並んだ腕組みの振り付け〜거칠어진 수면의 요동을 재워…のくだりがこの曲の心理と言ってもいいほど神懸かっているので問題ない(詳しくは動画を探してみてほしい)。
彼らはやはりビジュアルラインなのだ。
勿論いい意味で。
〝어듬 속에 핀 꽃, 바다 위에 뜬 달, 비밀같은 그 곳〟
このフレーズの真に迫るような切なさと美しさに、私はこれまで何千回も恋に落ちたし、この先何万回も愛し続けると思う。
【EXO-M ver.】
こちらは全体的に勇ましくて雄々しい印象を受ける。
MのメンバーがKに比べて地声が低いかと聞かれればそうなのかもしれないが、おそらく中国語の響きや彼らの歌詞の掴み方がそう感じさせるのではないだろうか。
儚さや切なさよりは、主に歌詞で歌われている〝She〟に対する屈強な思いや、ほとばしる情熱のようなものが頭に思い浮かぶ。
特にサビの始まりは〝나(na)〟の音から始まっているKよりも、〝我(wo)〟のO母音からであるMの方が迫力があるように思う。
MのボーカルラインはKよりも歌声が地声のトーンに近いので、歌詞の表現力の強さがある。
またラップラインのクリスとタオは、アイドルにそぐわないダークなテノールが心臓の奥で響いてくるような色気と男らしさを孕んでいる。
Kとの差別化に最も尽力しているのはこのパートではないだろうか。
ハーモニーの美しさ、バランスの良さよりは、個々の能力が要所要所で生きていることや、それぞれのカラーの強さなど、多様性が楽しめるトラックとなっている。
また大サビのレイの〝耀眼的光芒(yaoyan de guangmang)〟の悲痛な表情と声が犯罪級にかっこよくて色っぽい。
結局こちらのバージョンも神である。
…如何だろうか。
人は1つの音楽で、こうも簡単に狂うのだ。
Black Pearlと言えば、EXOと名を聞いて簡単に思い浮かばれるほど有名な楽曲ではない。
せいぜい「ファンの中での隠れた名曲」ぐらいのポジションだろう。
しかしそのマイナー感が、敢えて私の感動を煽る結果となっているのである。
単なる収録曲の、1つなのに。
何も綿密にヒットを逆算され、製作陣が万感の思いを込めたタイトル曲として、大々的に世に出された曲ではないのに。
あくまで、EXOという莫大なコンテンツの魅力を構成するための、ほんのひとかけら。
その果てしない贅沢感、それを当然とするEXOの計り知れない潜在能力に、まんまと脱帽させられたのだ。
この曲は、1stコンサートツアーであるロスプラと、2014年のMAMAの舞台で披露された以来、最近公式の場でのパフォーマンスはない。
無論私は、どちらもこの目で見たことがない。
来たる4度目のツアーのセトリに組み込まれていないとなると、私が次にお目にかかれるのはいったいつになるのだろうか。
その是非は、この1年のモチベーションにだいぶ大きく関わってくる。
…神様、どうかお願いします。
早く生でBlack Pearlを見せてください。
誕生石が真珠であることすらちょっとした運命に感じられる、この居た堪れない人間の理性を。
一刻も早く、ぶっ壊してください。
拝啓9人、そして3人
人生3度目にして最後のビッグブームであるEXOとの出会いから、もうすぐ3年が経とうとしている。
高校最後の学園祭準備に身を粉にして勤しみ、命火を燃やし尽くすほどの必死さでなんとか本番をやり遂げ、ようやく肩の荷が下りた10月の初め。
隣のクラスが体育祭の応援合戦の曲に使っていた으르렁(growl)に一耳惚れしたところから、私の中で全てが動き出した。
拝啓、当時のEXO様。
強く、正しく、美しい12人の神様。
この度は私の単調な人生を豊かにして頂き、誠にありがとうございました。
しかし、私が全員の姿を同じステージの上で拝める日は、きっと永遠に来ないだろう。
私がEXOの存在を知るより前から、クリスは既にそこにはいなかったからである。
私がEXOを好きになった直後に、ルハンはそこから忽然と消え失せたからである。
私が初めてEXOのコンサートに行くより前に、タオはあっけなく立ち去ったからである。
1番印象の強かったメンバー。
1番長く見惚れたメンバー。
1番最初に好きになったメンバー。
彼らが実在している人間なのかどうか、結局私は知る術を与えてもらえなかった。
12人の母国である韓国・中国ではもちろんのこと、あれだけ恋しがっていた日本ですら、もうこの3人をEXOのメンバーという前提で語る人はほとんど見かけない。
私ももちろん、そんなことはしない。
どれだけ悲しくても事実は事実だし、悔やんでも悔やみきれないけど、所詮はあれだけ反対されていた消費税も5%ではなく、まんまと8%が常識と成り得た世の中である。
つまりそういうことなのだろう。
時は移ろう。
人は出会い、やがて別れ、そして死ぬ。
今の私にできることといったら、当時の記憶に浸ることだけだ。
性懲りもなく1stアルバムを聴き漁り、未練がましく写真を眺め、動画を観続ける。
たった1つのアイドルグループも守ってくれないこんな世界じゃ、ポイズン。
もはやちょっとやそっとのことではショックを受けなくなってしまったのだから。
だけど、光はある。
EXOが12人でなくなったのは事実、しかしそれと同時に、かつて12人であったこともまた事実なのである。
ここ数年は法的、国際的にナイーブな部分に触れるということもあって、どことなく話題に出すことすらタブーという雰囲気が少なからずあった。
しかし最近EXO-M勢が中国のバラエティで久しぶりに共演したり、SNSで誕生日を祝ったり、相手の新曲を褒める姿がちらほら上がってくるようになったではないか。
これは3年前の私には到底想像し得なかった未来である。
理由の分からない突然の来韓や、まるで熱愛発覚前のスターカップルのように、何かを匂わせた現メンバーの投稿も少なくはない。
懐古厨で分析厨である私にとっては願ってもない幸福の兆しだ。
あと、あとほんの少し待てば。
セフンの自撮りの端にルハンと思しき人の服が映っているとか、タオがうっかり近くにいるベッキョンの声が入った動画をインスタのストーリーに上げてしまうとか、クリスがチャニョルの投稿にいいねを押してしまうアクティビティが流れてくるとか、そういうことが起こる日がやって来るのではないだろうか。
何も12人で復活しろと言っているのではない。
ただ、彼らがこれまで散々苦しんできたのと同時に、誠に勝手ながら、私たちも散々悲しんできたのである。
永遠の約束も誓いもこれ以上要らないから、せめて過ぎ去ったあの美しき日々が、嘘ではなかったという証明が欲しいのである。
EXO 1集 リパッケージ - XOXO (Kiss Version)(韓国語バージョン) (韓国盤)
- アーティスト: EXO(エクソ)
- 出版社/メーカー: SM Entertainment
- 発売日: 2013/08/10
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