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韓国語の勉強を兼ねています K-POPアイドルを中心とした音楽や芸能・映画に関する分析やレビューをぶん投げます

チェンベクシの血と汗と涙

昨日6月8日、EXOの派生ユニットEXO-CBX(以下チェンベクシ)が、自身初の単独コンサートツアー “MAGICAL CIRCUS” の公演最終日を迎えた。

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2015年、EXO初のファンミーティングが開催された横浜アリーナ

3年後、彼らはたった3人のメンバーでその会場を3日間埋めてしまっただけでなく、続く福岡公演・名古屋公演・ラストの大阪公演まで、その勢いと観客の熱気を決して途切れさせることはなかった。

ダークな雰囲気を纏った普段のEXOのコンサートでは見られない、明るく溌溂としたセットリストや、ポップでカラフルな舞台装置、エネルギッシュな生バンドやダンサーたちによる圧巻のパフォーマンス。

デビューから6年が経った今、彼らにはまだこんなにも底知れぬ魅力があったのか、と何度も度肝を抜かれた。

 

覚えているだろうか。

今や伝説の黄金期、まだEXOが12頭の狼だった頃。

初めて出演した韓国のバラエティ番組「週刊アイドル」で、超人級の高音ヴォーカル対決で注目を集めたメンバーが一体どの3人だったのか。

ギョンスが選ぶメンバービジュアルランキングで、下位3位にランクインする3枚目キャラを発揮したのが、一体どの3人だったのか。

あの頃はまだ、彼ら自身も想像だにしなかっただろう。

しかし今思うと、それも神様が仕込んだ伏線だったのかもしれない。

いずれこの3人が韓国のみならず、日本でも完全体に劣らぬ人気を博す大勢ドルの仲間入りを果たすのだという、輝かしい未来への。

 

チェンの血

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CBXのC。

EXOのカリスマメインヴォーカル、チェン。

完全体ではいつも穏やかで面倒見のいい彼が、チェンベクシで活動する時はひとたびマンネに早変わり、という思わぬギャップが、この上なく愛おしい。

EXOの抜群の歌唱力を語る上で、私たちはいつだってチェンの存在を外すことはできない。

彼の快活な声が軽やかに旋律をなぞるたび、まるで落雷したかのように眩い閃光が、何度私たちの心臓を貫いたことだろう。

それはロスプラのUp RisingでありDrop ThatのシャウトでありエリシオンのオープニングでありAngelであり、そしてそれ以外の多くのステージに当てはまる、EXOの公演お決まりで最高級のエクスタシーだった。

そして、彼が今回のCBXツアーで魅せた「Watch Out」のソロステージ。

正直今までの彼は全くのノーマークだったというエリでさえ、心の底からの絶叫を禁じえなかったはずだ。

「会場全員抱いた」。

比喩ではない、事実である。

その色気と圧巻のスタンド捌き、チェンという表向きの姿に擬態した、キム・ジョンデという1人の男の熱い本性、沸き立つ血潮、魂の叫び。

EXOとしての彼だって、十分凄かったはずなのに。

もうこれ以上はあり得ない、と思っていたのに。

圧倒的だった。

底抜けだった。

それに、天井知らずだった。

チェンベクシがチェンベクシとして完成する上で彼は、まるでその場に集う全ての人間の感情を湧き上がらせ、熱く脈打たせる心臓のようだった。

そして血沸き肉躍る饗宴を意のままに支配する、絶対君主だった。

今までのEXOでは決して「できなかった」のではない。

「やれた」けど、敢えて「やってこなかった」だけなのである。

 

ベッキョンの汗

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CBXのB。

EXOのキュートなムードメーカー、ベッキョン

チェンが心臓なら、ベッキョンはきっとチェンベクシの “顔” だろう。

韓国オリジナル曲の時のチェンベクシは魔法使いで、現実に例えるならディズニーランドのクルー。

日本オリジナル曲の時のチェンベクシはマジシャンで、現実に例えるならUSJのクルー。

このように、双方には若干異なる概念が存在する、と私は思っている。

そして、そのどちらのコンセプトにも上手く融和しているのが、メンバーの中でも特にベッキョンだと感じるのである。

例えばHey Mama!やBlooming Day, The Oneなど、SMがメインで手掛けた韓国の楽曲に関しては、本来のEXOよりかなりフランクな印象はあるものの、やはりどことなく洗練された上質なポップスという感じがする。

荒廃した更地を美しい花畑に変える―

そういうロマンティックな魔法をかけるイメージだ。

 この時のベッキョンには、EXOのダークな楽曲パフォーマンスで入っているスイッチがOFFになっている。

本来ビョン・ベッキョンとは、ああ、こういう軽やかでポップな人なんだな、というようなことを、素で目の当たりにさせてくれるのである。

一方KA-CHING!やHorololo, ソロ曲のRinga-Ringa-Ringなど、avexがメインで手掛けた日本の楽曲は、先ほど魔法で変えた花畑に色とりどりの蝶や動物たちを新たに生み出し、楽しくダンスを踊らせる―

そういう鮮やかなマジックを魅せるイメージだ。

この時のベッキョンはOFFではなく、EXOの時とは正反対の「陽」のスイッチを完全ONにしてステージに上がる。

エンジンフルスロットル、スーパーハイテンション!という感じである。

以前「人生酒場」でシウミンが「ベッキョンはEXOであるせいで発揮できていない力がある」と言っていたが、まさにそのポテンシャルがここで大爆発しているのではないだろうか。

もともとヴォーカル担当だったはずの彼が、ソロステージでバッキバキに躍り、汗を振り乱しているのを見ると、こちらの心までがかき乱されて、もう辛抱堪らなくなる。

もはやチェンベクシでの彼なくして、EXOのベッキョンを語ることはできない。

 

シウミンの涙

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CBXのX。

EXOの長男で最強オールラウンダー、シウミン。

賑やかな同学年のチェンとベッキョン、明るく眩しい雷と光を静かに鎮める、クールな氷の支配者。

彼の存在こそ、チェンベクシに未知なる化学反応をもたらし続ける魔法の正体であり、ファンキーな手品のタネだ。

もしここに加わったのが彼でなくチャニョルなら、それは誰もがご存知ビーグルラインである。

もしここに加わったのが彼でなくギョンスやスホなら、それはEXO-L自慢のヴォーカルラインである。

だが、もしシウミンなら?

もしチェン・ベッキョンと共にユニットを組むメンバーがシウミンだったら、一体どうなるのだろう?

そんな意外で実験的な誰かの好奇心が、きっと今の3人に成功をもたらしたに違いない。

「成功したオタク」の代表例としてよく名前が挙がるシウミンだが、彼のソロステージ、レーザビームの乱反射するミラーマンとのパフォーマンスでは、思わず東方神起の面影を見た。

安定的な歌唱力にも、疲れ知らずの無尽蔵な体力にも、ステージに対する静かなる闘志にも。

東方神起がいなければEXOにはなってません」と断言する彼は、たゆまぬ努力と着実な足取りで、今まさに彼らと同じ花道を歩んでいる途中なのだ。

そして公演フィナーレで見せた、思わぬ涙。

記憶が正しければ、5年前のEXO SHOWTIME4話「七番房の奇跡」以来だ。

私たちファンがそれを目にしたのは。

初の東京ドーム公演でも見られることはなかった。

もうきっと近い将来、見られることはないのだと思っていた。

だがアンコール最後のサプライズで、あろうことかこの日本公演で、彼は私たちの前で堪え切れない涙を流してくれた。

EXOの頼れる長兄で、メンバーを「守らなくてはいけない弟たち」と位置づけ、いつも一歩離れたところでその姿を優しく見守っていた彼が、初めてファンの前で自分の感情を露わにしてくれた。

チェンベクシというユニットの存在が、その素晴らしい公演が、それを可能にしてくれたのだ。

韓国年齢で今年29歳の彼は、他のメンバーと比べて兵役までもう時間がない。

その事実がより一層、悲しみや不安を煽ったのだろう。

だがEXOのメンバーが流す涙で、こんなに幸せな色を、私は初めて見た。

そう断言できる。

 

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本当のところ、皆当初はそこまで大きな期待を寄せていなかったように思う。

「チェンベクシはいいからEXO完全体での公演をしてほしい」

「推しのメンバーがいないからチェンベクシのコンサートは行かない」

そんな意見を幾度となく目にした。

私も正直、いくら天下のEXOとはいえ、たった3人での海外活動なんて上手くいくのだろうかと思っていた。

わざわざチェンベクシ単独でなくても、EXOの公演で楽曲を数曲やってくれればそれでいいと思っていた。

しかし、それは大きな間違いだったのだ。

会場には口コミを聞いて訪れた大勢の人々が当日券に並び、立ち見でも構うものかと、スタンドの最後尾には連日人が溢れ返った。

EXOの公演では絶対に見ることのできない3人の新たな一面が垣間見れ、2時間30分では到底足りないほど充実した空間と記憶が、そこには確かにあった。

次に3人に会えるのは、ファンミーティングだ。

しかしそこにはチェンベクシとしてではなく、EXOとしての彼らがいる。

あの愛おしいサーカス小屋を去り、魔法を解いて、元に戻ってしまった彼ら。

会えるだけで嬉しいはずなのに、どうしてこんなに切ないのだろう。

なんて思うだけで、傲慢かもしれない。

だが、考えずにはいられないのだ。

次に3人の魔法にかかれるのは、一体いつなのだろう?

と。

その答えはまだ分からないけど、今はただ唱えて、ひたすら待ち続けるしかない。

マジカルサーカスで3人がくれた、あの幸せの呪文を。